7/3-7/14▷海老塚耕一|Correspond-1977年7月 大邱の余韻

2024年7月3日(水)~7月14日(日)
12:00~19:00、日曜17:00まで 月・火休廊

水平線に橋をかける

gallery fuでは、7月3日(水)から7月14日(日)まで海老塚耕一展「Correspond-1977年7月大邱の余韻」を開催します。

 タイトルの“Correspond”を海老塚耕一は「照応する」と訳した。照応するとは、二つのものが互いに関連し、対応すること。タイトルから頭に浮かぶのは、1977年7月大邱で海老塚耕一に何があったのか、ということだ。履歴を調べると、「1979年『第5回大邱現代美術祭』大邱、韓国」があった。個展タイトルとは2年の違いがある。早速照応作業が始まる。しかし、照応作業でパズルのピースが埋まったとして、作品の本質に辿り着いたと言えるのだろうか?
 もう一度、作品に向き合う。海老塚は、作品全体に使用した素材が、韓国の床暖房・オンドルの上に敷く韓紙・壯版紙(チャンパンジ)であること、大邱に行った時にその紙に興味を持ち、後日取り寄せたが、その後ずっとしまってあったことを教えてくれた。「素材というのは、すぐに使うのではなくずーっと寝かせておいて、ここだ、と思ったタイミングで使うものなんだよ。」この言葉から、一時的な感情や感傷的な気分を素材に盛り込むのではなく、素材そのものが本来持つ力を見出した時に作品化する、という彼の制作姿勢を感じ取る。韓国の壯版紙に似た紙が日本にもあった。和紙を貼り重ね表面に油を染み込ませた敷物“油団(ゆとん)”である。“油団”はその上に座ると涼しいため、日本では夏に使用していたらしい。同じような素材でも使い方が違うことに驚く。
 この作品の面白さは、相反しているかのように見える物事が「Correspond」していることだ。温かな肌触りを感じさせる幾重にも丁寧に貼り重ねられた壯版紙。一方で、その穏やかな広がりを分断するかのような鉄の板や立方体は硬質な冷たさを感じさせる。その中で、円筒に向かってヒゲのようにスッと伸びる鉄の棒が、それら緊張感をほぐし、同じような種類なのに使い方が違ってもいいよ、と許容している韓紙と和紙のようにおおらかである。
 作品は、ある地点から別の地点へと連れて行ってくれる橋のようだ。その橋は、どんな時間もどんな場所も越えられるような気がする。たとえそれが、あるように思い込んでいるだけで実際には存在しない水平線だったとしても……。あとは自分の感受性を信じ、その境目を渡っていくだけだ。
gallery fu
代表 鈴木智惠

海老塚耕一/EBIZUKA Koichi(美術家, 彫刻家, 版画家)
1951年 横浜市生まれ
1976年 多摩美術大学美術学部建築科卒業
1979年 多摩美術大学大学院美術研究科修了
2022年 多摩美術大学 美術学部 芸術学科教授退職
主な活動
1986年「第6回インドトリエンナーレ」ゴールドメダル受賞(インド・ニューデリー)
1987年「第19回サンパウロ・ビエンナーレ」出展(ブラジル・サンパウロ)
1989年「第4回アジアン・アート・ビエンナーレ」最優秀作家賞受賞(バングラディシュ・ダッカ)
1991年「第15回平櫛田中賞」受賞(岡山・伊原市立田中美術館/東京・日本橋高島屋)
1997年「モンドマルサン彫刻展」出展(フランス・モンドマンサル)
1997年「インサイド」出展(ドイツ・カッセル)
1999年「第5回瀬戸田ビエンナーレ」作品設置(広島・瀬戸田町)
2001年「第19回現代日本彫刻展」神奈川県立近代美術館賞受賞(山口・宇部市野外彫刻美術館)
2002年「海老塚耕一展 -眼差しの現象学-身体・素材・記憶」(神奈川・神奈川県民ホール)
2003年「第14回タカシマヤ美術賞」受賞
2003年「大地の芸術祭 越後妻有アート・トリエンナーレ2003」作品設置(新潟・十日町市、津南町)
2007年「絵画・彫刻・今 そして明日へ 海老塚耕一展」(神奈川・かわさきIBM市民文化ギャラリー)
2007年「海老塚耕一展 混合の記憶-水と風の運動より」(富山・入善町下山芸術の森発電所美術館)
2009年「海老塚耕一展 呼吸する風の肖像」(群馬・渋川市美術館)
2012年「海老塚耕一展 風、扉は閉まっていると水に語る」(愛知・中京大学アートギャラリー)
2013年「海老塚耕一 水辺に佇み、風に触れる」(神奈川・カスヤの森現代美術館)
2014年「海老塚耕一 境界へ、水と風から」(神奈川・横須賀美術館)
2015年「第92回春陽展」岡鹿之助賞受賞(東京・国立新美術館)
2017年 海老塚耕一「励起する表面」作品を触れる・見る・感じる(東京・八王子夢美術館)
2017年「Daegu Art Fair 2017」(韓国・大邱広域市)
2019年「それぞれのふたり 池田良二と海老塚耕一」展(東京・世田谷美術館)
2023年【栃木県那珂川町小砂】第4回小砂環境芸術祭 アートディレクター
ほか、国内外での個展開催、国際展、グループ展出展多数
gallery fuでの展示
2015年「参加型展覧会|海老塚耕一展『触れる』から」

2017年「海老塚耕一|にぎやかな身振り -ドローイング-」
2018年「海老塚耕一|錆(sabi)」
2019年「海老塚耕一|水の家」
2020年「海老塚耕一|漂う水床から-朝の深い休息-」
2021年「海老塚耕一|水のポリフォニー」
2022年「海老塚耕一|支えきれない瞬間―漂流する物たち
2023年「海老塚耕一|潜勢的な個